鳥獣管理フォーラム2016

JWMS鳥獣管理フォーラム「カモシカは生き残れるか?」

主催  一般社団法人 鳥獣管理技術協会
    鳥獣管理CPD認定プログラム 2.5単位
日時  平成28年5月29日(土)

  • シカの増加とカモシカの現状・課題 (常田 邦彦)
  • 栃木県のシカの増加とカモシカの現状 (小金澤 正昭)
  • 長野県のシカとカモシカの現状(岸元 良輔)
  • カモシカは生き残れるか?(三浦 慎悟) 


 

シカの増加とカモシカの現状・課題(基調講演)

 

常田邦彦(自然環境研究センター 研究主幹)

 

カモシカとシカのそれぞれの特徴について

 最初にカモシカとシカについて、それぞれの特徴を比較してみる。まず分類上では、カモシカはウシ科であり、オス・メスともに毎年成長する洞角という角を持つ。一方でシカはシカ科の動物で、オスのみに枝角が生え、角は毎年生え替わる。社会構造と繁殖形態をみると、カモシカは単独性で縄張りを作り、繁殖は原則的に一夫一妻制である。縄張りを作る理由は、食物資源を確保するためだと考えられている。一方でシカは群れを作り、一夫多妻制である。シカは群れのなかで食物資源を共有する。また、カモシカの食性は「栄養価が高いが散在している木の葉や芽をつまみ食いする」というブラウザー(木の葉食い)的な食性であるが、シカは「栄養価は低いが集中して大量に存在するイネ科草本などを食べる」というグレイザ ー(草本食い)的な食性を持っている。さらに、シカは幅広い植物種を利用できる柔軟な食性をもち、餌資源が少なくなると体格を小型化させることで高密度を維持しようとする特性をもった動物である。
 カモシカとシカの初産齢と産子数については大きな違いはないが、成獣の出産率はカモシカは7割だがシカは9割以上であり、シカの方が高い繁殖力をもっている。そのため増加率はシカの方がカモシカより高く、捕獲圧に対してもシカはカモシカよりも強い耐性をもつと言える。現在のカモシカの個体数に関する近年の調査資料はないが、1980 年前後で約 10 万頭と推計されており、現在は 20 万~30 万頭程度と考えられている。一方で、シカについては約300万頭(2014年の環境省による推計)と考えられている。
 カモシカの生息密度は一般に 1 平方キロメートルあたり 2、3 頭以下で、最高値でも 20 頭程度と低いが、シカの全国的な平均生息密度は10数頭と考えられており、最高値は100頭を超え、全体として上昇傾向が続いている。
 森林被害の特徴としては、カモシカは加害対象が幼齢林など限定的であり、低密度でもその地域に定着する個体がいれば被害が発生する。一方でシカは、加害対象や被害状況がその地域における個体密度によって変化し、被害の形態が様々である。両種の農業被害には、森林被害のような特徴的な種間の差異はない。法律上の扱いは、カモシカは種指定の特別天然記念物で非狩猟獣であるのに対して、シカは狩猟獣である。

 

 

 

カモシカ保護管理の歴史と現在

 カモシカは現在では特別天然記念物であるが、近代日本において当初は狩猟資源として扱われ、カモシカの毛皮で作った「尻皮」などの道具が一般的に利用されていた。しかし、高い捕獲圧のため個体数が減少し、狩猟禁止となり保護が始まった。
 1925 年、カモシカは狩猟法において捕獲禁止動物に位置づけられた。しかし法整備が行われた後もカモシカの密猟が続いた。 1959 年、全国的な密猟の取り締まりが行われたことでカモシカの密猟が減少し、さらにカモシカが保護動物だという認識が国民に浸透した。またこの時期には、高度成長による日本社会のパラダイムシフトが起こり、農山村の自然資源依存が弱まるとともに野生動物観が「資源」から「保護と愛護対象」へと変化し始めた。1963 年には狩猟法が鳥獣保護法へと改正され、捕獲規制が強化された。このような変化を背景に、1960 年代からカモシカの個体群は回復していった。
 その結果 1970 年代には、カモシカによる農林業被害が顕在化し、「絶対的な保護」から「科学的な保護管理」への施策転換が必要となった。1979 年、保護と被害防止を両立させるため、文化庁・環境庁・林野庁の三庁合意による新たな保護管理施策の枠組みが作られた。その内容は、カモシカの保護地域を計画的かつ速やかに設定し、地域限定的な天然記念物とするとともに、保護地域外では個体数調整を認めるというものである。カモシカの捕獲が禁止されている保護地域は文化財行政の管轄であり、複数の県にまたがる管理体制と、特別調査と通常調査と呼ばれる保護地域のモニタリング体制が整備された。被害防除に関しては、捕獲以外の防除手段の支援、および文化財保護法と鳥獣保護法の2重の許可による捕獲の管理、全ての捕獲個体の分析と一部捕獲地域の密度変化などのモニタリングなどが進められた。長期間にわたって捕獲を継続している地域は、岐阜県、長野県、愛知県、静岡県であるが、これらの地域では近年カモシカによる被害が減少してきたため、捕獲を中止する市町村が増え、カモシカの捕獲頭数は減少している。
 三庁合意と捕獲の開始を受けて、1980 年代からは科学的保護管理の探求がはじまるが、当初は保護地域外のカモシカの保護管理を担保する仕組みは用意されていなかった。しかし1999 年の鳥獣保護法の改正により、特定鳥獣保護管理計画制度(特定計画)が創設された結果、捕獲を含む保護管理には特定計画の策定が必要となり、これが担保措置となった。2004年の鳥獣保護法
 改正により特定計画は「保護」の計画(第一種保護計画)と「管理」の計画(第二種管理計画)に分割されたが、カモシカを対象とした特定計画はすべて第二種管理計画である。この特定計画においても、カモシカの捕獲には文化財保護法の許可が必要である。また捕獲には被害地に生息する個体をピンポイントでターゲットにする方針が採用されているものの、捕獲地域以外でのモニタリングが実施されておらず、地域個体群全体の動向が把握できていないなど、問題点が残されている。なお、九州と四国の保護地域が設定できないため、天然記念物の種指定から地域指定への変更は行われていない。

 

カモシカ保護管理に関する年表

 

シカの増加とカモシカの減少

 カモシカによる農林業被害は、1982 年から減少している。一方でシカの個体群は増加が続き、被害も高止まり状態である。狩猟と許可捕獲によるシカ捕獲数は近年急増しているが、個体数の低減は達成されていない。シカは農林業だけではなく、下層植生を食べつくし生態系に大きな影響を与え、土壌浸食をも引き起こす動物であり、生態系影響も拡大している。
 シカが分布を広げるにしたがい、シカが高密度化した地域ではカモシカの密度と分布に変化が生じている。九州地方では個体密度の推定が困難になる程のレベルにまでカモシカの密度が低下している。また全国的な傾向としてカモシカの密度は 1980 年代から緩やかに減少し人里周辺に進出する傾向が見られるが、その要因として餌をめぐるシカとの競争のほかに、人工林の成長による下層植生の変化やシカが侵入したことによる心理的なプレッシャー、あるいは中山間地域における人間活動の停滞による各種人為的圧力の低下等が考えられている。

 

カモシカの分布の変化

 

 

カモシカ保全の課題

 いまカモシカは、全国的に分布の広域化と低密度化が進行しているが、特に西日本では個体数の著しい減少に鑑みて地域個体群の積極的な保全を検討すべき状況にある。これまで、文化財行政では保護地域のモニタリングシステムが整備され、鳥獣行政では特定計画制度が創設されたことにより、被害問題に対応したシステムは整備されてきた。しかし現在、カモシカ問題の中心テーマは「被害問題」から「西日本の地域個体群保全」へ移行している。また、八ヶ岳、富士山、丹沢など「保護地域がない小規模個体群地域」への注意が必要である。
 カモシカが減少した要因は未だ解明されていないが、主な要因は「環境の変化」と「シカとの競争」と考えられている。環境の変化とは、若齢造林地の減少、森林の成長やシカの高密度化に伴う林床植生の変化で、ブラウザーであるカモシカにとっての「環境の質」が低下し、シカが増加したことによって餌資源をめぐる競争にもさらされることとなったと考えられる。またシカの高密度分布がカモシカを心理的に圧迫している可能性もある。その他にも、シカやイノシシ対策として設置されたくくりわな等による錯誤捕獲、防護ネットへの絡まり、巻き狩り時のイヌによる追い回しなどもカモシカの減少に影響していると考えられる。
 カモシカの保全における今の中心的な課題は、減少の著しい地域個体群、特に西日本の地域個体群の保全である。そのための方策として、短期的には地域個体群の絶滅の回避、中・長期的にはシカの低密度化と森林施策による生息環境の改善や種間競争の低減が考えられる。そのためには、カモシカとシカの密度分布構造、地域個体群の危急性の程度、残せる拠点の把握など、2種の生息状況の実態把握が重要である。また、シカ密度の強力なコントロールや、わなや防護ネット等の人為的死亡要因の削減など、当面の施策の具体化も必要である。カモシカ保護管理の法的・制度的側面に関しては、関連行政機関の間での横断的、総合的な施策展開のシステムが必要であり、カモシカ問題への注目と動機づけも重要である。

 

 

 最後に、カモシカ研究は 1990 年代半ば以降停滞しており、特に個体群維持のメカニズムや環境の評価、個体群変動と環境との関係等に関する研究蓄積が求められること、カモシカにかかわる研究者の育成と確保が急務であることを指摘したい。 

 

   

(JWMS2016)